ニュースの概要
台湾政府は、観光産業の年間生産額を1兆台湾ドル超に引き上げ、海外からの旅行者を2030年までに年1,000万人へ増やす目標を掲げた。達成の手段として前面に出したのが、AIとビッグデータの活用である。観光事業者が旅行者の嗜好を分析し、サービスの効率化や需要に合った商品づくりに生かせるよう、国として後押しする方針だ。台湾は日本にとって訪日客数の上位を占める重要な市場でもある。隣の観光先進地が国をあげてデータ活用に踏み出したことは、日本の宿泊・交通・小売・飲食の事業者にとっても、他人事ではない動きといえる。
引用元: AI・ビッグデータ活用を観光振興に導入、旅行者ニーズの把握を強化(Taipei Times)
分析・見解
目標は人数でなく、1人あたりの価値を測ること
台湾の目標には、旅行者数と並んで「年間生産額1兆台湾ドル超」という金額の指標が入っている。ここが重要である。人数だけを追えば、混雑と値引き競争に陥りやすい。金額を並べることで、1人がどれだけ消費し、どれだけ長く滞在したかを測る発想に変わる。
日本でも訪日客数は過去最高を更新し続けているが、地域によっては消費額が伸び悩み、混雑だけが残る例がある。数を数える仕組みは整っていても、価値を測る仕組みが追いついていないのが実情である。
散らばったデータを1本につなげて初めて意味が出る
ビッグデータ(=大量で多様な記録のまとまり)と聞くと、特別な設備が必要に思える。しかし観光で価値を生むのは、量よりも「つながり」である。宿泊予約、交通系ICの利用履歴、決済、検索、口コミ、位置情報。これらは別々の会社が持っており、単体では断片にすぎない。
例えば、ある旅行者が台北から福岡に入り、屋台で食べ、温泉地へ移動したとする。宿の予約だけを見れば温泉客だが、決済と移動を重ねると食の目的が強い客だと分かる。この違いが、案内の内容も、売る商品も変える。台湾の方針は、こうした断片の突き合わせを事業者任せにせず、国の枠組みで支える点に特徴がある。
個人情報の線引きが、普及の速度を決める
技術より先に壁になるのは、個人情報の扱いである。旅行者は国籍も言語も法制度も違う。欧州のGDPRのように厳しい規制を持つ地域の客も訪れる。個人を特定しない形に加工した集計データで足りる場面と、本人の同意を取って個別に案内する場面を、最初に分けて設計する必要がある。
この線引きが曖昧なまま始めると、事故が起きた時点で全体が止まる。逆に、同意の取り方を分かりやすくし、見返りとして割引や混雑回避の情報を返せば、利用者は自分から情報を差し出す。データ活用は、旅行者への見返りの設計と一体で進めるものである。
需要予測が当たるほど、地方の宿と飲食が助かる
需要予測の価値は、大都市よりも小さな事業者で大きい。仕入れ、シフト、客室の価格設定は、先の読みが外れると損失に直結する。週末の来訪が3割増えると分かっていれば、食材の発注も人員の手配も前倒しできる。
過去には、天候や為替、航空座席数、ほかの地域の祭りの日程といった要因が、来訪数を大きく動かしてきた。AIはこうした複数の要因を同時に見て傾向をつかむのが得意である。ただし、予測は外れる前提で使うべきだ。外れた時に誰が判断を直すかを決めておく運用が、精度そのものと同じくらい大切である。
ビジネスへの影響
まず自社で持つデータを棚卸しする
大きな投資より先に、手元の記録を確認したい。予約システムの国籍欄、問い合わせの言語、決済の時間帯、客室の稼働率。これだけでも、台湾からの客がいつ、何泊し、何に支払ったかは見えてくる。入力が空欄だらけなら、まず記入ルールを揃えることが最初の仕事になる。
次に、近隣の宿や観光施設と、個人が特定されない範囲で集計値を交換する。1社だけでは小さなデータも、10社を重ねると地域の傾向になる。
小さな実験で、案内の個別化を試す
全員に同じ案内を出す時代は終わりつつある。台湾からの客には繁体字の地図とおすすめ、欧米の客には別の導線、というように、国籍と目的で出し分けるだけでも反応は変わる。まずは予約確認メールの文面を2種類にして、反応を比べるところから始められる。
効果の指標は、クリック数ではなく客単価と再訪の有無で見る。費用が小さく、結果が数字で返るため、判断者が社内で説明しやすい。
予測を人の判断に結びつける
予測ツールを入れても、現場が使わなければ意味がない。予測値が出た日に、誰が仕入れを変え、誰が価格を直すのか。その担当を事前に決める。月に一度、予測と実績の差を見直す会議を設ける。この地道な運用が、投資を回収できるかを分ける。